灰釉のしっとりとした肌合いに、まるで筆で描いたかのように、流れる線で掻き落した草花のモチーフのうつわ。品良く優しい印象は、作家が自然に向けるまなざしそのものだろう。大原さんは、普段使いにというが、日常の食卓に乗せれば、新たな楽しみも加わるに違いない。
伝統工芸展入賞の実力を持ち、存在感ある作品でファンも多い大原さんだが、ACCa 4回目となる今回の展示に向けて、「初心に戻り、もっと自分らしく、もっと自由に」を基調に、作陶中であるという。記憶をコラージュした陶板なども展示される。新たな一面が見られるのも、楽しみである。
大胆でシンプルな画面構成、爽やかな色彩に、まず惹かれる。画面を切り取っていく無造作且つ、しなやかなラインは、どこかユーモアも感じさせる。そこに木版の温もりが作用すると、不思議に清々しい色気のようなものが流れ出す。野村さんの木版画は、実に鮮やかだ。
野村さんは、花が終わる頃、わくわくするらしい。木の実や種ができるのを待ち、観察する。小さくても美しく、機能的でいろいろな仕掛けがあることに感動するのだと。「私にとって、版表現には、そんな気持ちを表現し、かわいらしく機能的な作品を作り出す可能性があるのです。」と語る。日々、驚きや発見を繰り返し、いきいきと制作する彼女の作品が魅力的なわけである。
制作のほとんどの時間をろくろの前で過ごすという山崎さん。生み出されたフォルムは、これ以外の形はないと思えるほど、すっきりとして美しい。「無理のない自然なラインを引き出せるように、土に直接触れながら、じっくりと確かめる。」と語るが、土をイメージ通りに形成するという、しっかりした技があってのことだ。
そこに、辰砂釉(銅)で落ち着いた赤が添えられ、象嵌でゆらぎのある線が施される。すると、静かに端座していた形は、華やぎをまとい個性ある表情を増していく。「自分の作る器を通して、いろいろな方と出会える、繋がれる。それが一番うれしい。」と、作家は控え目だが、ぜひ使ってみたいと思える、おしゃれな器に出会えるはずである。
サノアイさんの木工作品には、くすっと笑ったような表情がある。何も入っていない器でも、ほっこりした何かが盛られているように思える。写真の作品のタイトルは、「砂糖小屋」と「甘味小屋」。素朴な形の家の屋根を開けると、甘くて幸せなものが入っているという意図なのだそうだ。
愛敬あるものを作りたいという。でも媚びはしない。焼きペンで描く絵や模様も控え目だ。使う人の想像の余地を残したいからと。大きく主張しないのに、作家の個性、「らしさ」があふれるのが実力だ。
展示期間に3・11が入ることに緊張するというが、サノさんの木工は、人の心をほぐし豊かににするはず。皿、カトラリー等の他に、ブローチやペンダントも展示される。
田子さんの色合せや色彩には、いつも楽しい驚きがある。ゆるやかな線や点や面で合される意外な色と色。赤とオレンジ、紫と薄青、緑と赤等々が、暖かく柔らかい光の中に楽しげに存在している。大胆なのに、ほっと気持ちが緩んでくるようだ。
「自分の特徴である奔放な色合せを活かして、誰かの食卓を楽しく元気にできたらいいなあと思いながら制作している」という。「制作を休止せざるを得なかったこの1年が、逆にガラスへの視野を広げてくれたかもしれない」とも・・・。
田子さんが目指す「飾っても使っても楽しい器」が並ぶ展示は、見る側や使い手の心も愉快にしてくれることだろう。
「なにげなくて心地良いもの、シンプルで穏やかなものを、と思って制作してきた」と語るスエトシヒロさん。その白い器は、シンプルそのもの。と同時に、洗練、おしゃれである。無駄を削ぎ落としているのに冷淡でなく、すっきりと潔い造形は、使い手にとっても心地良いのだ。
福島で被災し、現在は瀬戸で制作している作家は、「制作できるありがたさとともに、あたりまえの日々の中であたりまえに在って、あたりまえのように共に暮らしてゆける」ことの意味を、強く感じているという。そんな細やかな感性から生まれる作品なのだ。
日常の暮らしのなかで、ずっと使っていきたいと思える器に出会えそうである。
今回の振出し、季節も良し、野点にでもと、小野田さん。そう改まらなくても、ちょっぴり愛敬のあるこの器から、金平糖やあられが転がり出てくるのを想像するだけで、楽しくなるではないか。自然の息吹を感じさせるいきいきした文様も、楽しさを後押ししてくれる。
「染付け一筋、一色で表現することの難しさや奥深さに惹かれて制作してきたが、まだまだ挑戦したい技法、文様がある」という。ACCa 4回目になる今回、一輪挿しの掛け花入れや、タタラ皿なども展示される。親しみやすさと品のよい趣とを併せ持つ作品に、再会するのを待つフアンも多いはずだ。
ACCa 3回目となる松尾一朝さん。手のひらサイズの繊細な見かけによらず、掌にのせるとずっしりした量感のガラスの小箱。ヒカリノイレモノと名付けられたこのシリーズに魅せられた人も多いはず。
ガラスの固まりを削り出していくと、曇った磨りガラスに閉じ込められていた色とりどりの光の線や粒たちが、思い思いの表情で、小箱の中を柔らかい光で満たしていく。松尾さん独特の世界だ。
今回は小箱以外にも、器や箸置きなど生活空間に加えやすいアイテムも制作中というのも、楽しみだ。柔らかい色と手触りのガラスをぜひ楽しんでほしいと、松尾さんも語っている。
同心円に重ねた径の違う数枚の皿。ぴたりと合うしのぎの美しさ。加藤さんの制作姿勢や言葉のブレのなさ、そのもののように思える。もちろん、いっそう磨きをかけた技術あってこそなのだが。
自ら山で手掘りした土を使い、「毎日使い続けられる器、シンプルで土の温かみのある器」を、まっすぐに目指す芯の強さが、粉引の白から土味がほの見える優しい器に、凛とした趣を添えている。
和にも洋にも合う良さから、少しずつ揃えていきたいと思っているファンも多いだろう。今回も十分に期待に応える作品が並ぶはずだ。
熱く溶けたガラスを吹き竿に巻き取って形作る、吹きガラスの技法が大好きだというアキノさん。充たされ張りつめた高温のガラスが、頃合いで動きを止め、ふと緩む瞬間がつくるフォルムは、柔らかく滑らかだ。そして、工程からは想像もつかない涼やかさが漂う。
透明なガラスの中で、白い線がそよ吹く風に舞うレースのシリーズは、どこか懐かしい。箔の円形がぽっかり浮かぶ箔シリーズは、昼の空にかかる月を思わせて、ミステリアスにも思える。
「食器に盛る行為は、おいしい・うつくしいを感じる為の仕掛け」というアキノさんの言葉に納得。その上、手にも食卓にもしっくりとなじむ器だ。前回に増して多くの作品が展示されるはず。ぜひ、手に取っていただきたい。
ガラス・メタル・漆の作家、9人による、アクセサリーだけを集めた、アッカ初の試み。 夏の光のきらめきを切り取ったかのようなガラス。木陰の涼風を運ぶメタル。月光に映える花のような漆。いづれも、夏の光と風の揺らぎを感じさせてくれるような作品が並ぶ。 個性的ながら優しい表情のペンダント、ブローチ、イヤリングなど。装いに添えれば、夏がいちだんと楽しくなるはずだ。
<参加作家> ガラス:上野ツカサ、松浦あかね、竹本亜紀、小島有香子、井上枝利奈、尾形かなみ メタル:山田亜衣、西川美穂 漆 :山本奈穂
漆山さんの生み出すガラスの色彩に、まず魅かれる。「影色」と名付けられた新しいシリーズの微妙でシックな色合いは、たとえば二藍(ふたあい)、鴇色(ときいろ)、翡翠色などと、伝統の色名で呼びたいようだ。デザイン化された鳥や木や風が、そんな色の光と影の両面に溶け込み、遊んでいる。
「気持ちを言葉にするのは難しい。だから作り続けるのだと思う。嬉しい気持ちを残すために。悲しい気持ちを忘れないために。」と、作家は言う。吹きガラスの自由な造形が魅力の「わたねシリーズ」、シルエットが楽しい「街シリーズ」に加え、いちだんと陰影を深めた作品を、今回も十分に楽しんでいただきたい。
岩崎さんの器は、さりげないのに、ふと目に留まる。これ見よがしの様子などどこにもないのだが、据わりが良いというか、ひと味違った落ち着き具合なのだ。
「ハレのうつわではなく、普段使いのうつわ、何気ないけど使い勝手がよく、つい使いたくなるうつわを作り続けたい」という、ご本人の言葉に納得してしまう。
粉引き、鉄釉、緑釉などを使ったすっきりとした造形は、現代的でおしゃれだ。料理を盛り付けた姿が、自然に目に浮かんでくる。食卓の常連となる一品に出会うこと、請け合いである。
書籍、雑誌、絵本など、幅広く活躍中の木村晴美さん。そのイラストに見覚えのある人も多いだろう。虹を描くような伸びやかなラインは、人物のずんぐりした胴体や腕になり、ぐんぐん広がる植物になる。あるときは、何かを期待しながら待っているまん丸い眼。鮮やかで大地を思わせるような色づかいも加わって、どこか懐かしく、とても楽しい。
「宇宙から見たら、塵にも見えない小さな存在の一人一人でも、誠実に、活き活きと生きていたら、周りも元気になるのではないか。そんな人のひたむきさ、力強さを信じたいと思う。」と 語る。このおおらかさ、前向きな姿勢が、作品の魅力の源だ。木村晴美の世界に、ひととき遊んでみれば、きっと楽しくなれるはず。
織物作家の庄子葉子さん、ACCa 初の登場である。糸を紡ぐ、染める、織る、すべてに楽しみがあるという。糸を作ろうとすれば、綿を栽培し、羊にも会いに行く。染料も、身近な植物をあれこれ試してみる。でも、中心になるのは、なんといっても ”織ること”だ。日々の暮らしの小さな喜びを織り込んでいきたいと。
いくつもの色や風合いが、隣り合い重なり合って出来上がった布は、優しい音色を奏でているかのようだ。実際、音楽の一音一音を、イメージした色に置き換え、楽譜通りに並べて織ることもあるそうだ。なんと楽しそうではないか。
寒さの季節に向けて、ほっこりと心まで温かくなるようなマフラーやバッグなどが展示される。
シンプルでゆるぎないラインの美しさと、使い易さを追及した器で、年々人気が高まる山下秀樹さん。ACCa 2回目の展示である。
黒地に輝きを放ちながら移ろう銀色、合い間にのぞく青い光。不思議で神秘的な輝きを見せる、注目の銀化天目シリーズ。「鉄釉を燻す独自な焼成で、毎回異なる窯変が面白い」と、作家は語る。上品で、おしゃれな器は、食卓上の特別な一品になるはずだ。
季節にふさわしい土鍋、直火ポット、直火パンのシリーズ。しっかりした胴にかっちりした持ち手が醸し出す安定感は、中に入れた食材がふっくら、じっくり炊き上がる様子さえ想像できてしまう。オーブンでも楽しめるという。他に、魅力的な酒器、花器も展示される。
銅版画作家であり、絵本や詩も手掛ける内木場映子さん、ACCa 初登場。「普通の生活のなかにある些細な想い、記憶の破片。言葉にならない気配のようなものを、丁寧に形にしていきたい。静かな古典音楽のような、詩的で優しい世界を目指したい。」という。
日々のささやかな幸せを、作家はそっと瓶の中に入れる。ずっと覚えていたいから。少し疲れて、ふと窓の外を見ると、そこにはいつもと違う景色が。どこかで見たような、なかったような、空と丘の色合いにほっとする。銅版画の抑制された色彩と、穏やかなラインが融合したファンタジーの世界。心惹かれる作品にぜひ出会っていただきたい。
「ツヅレオリ」シリーズで、独自の世界を表現している竹本さん。透明な空間に浮かぶ多様な色彩が、重なり合い調和した絵画的世界は、見る人を魅了してやまない。色づけしたピースをモザイクのように組み合わせて焼成する、複雑で手間の掛かる手法で、近年は大作も制作している。
加えて今回は、「12月のキラキラした気分を味わえるもの、モザイクと対照的に、ポンポン!とリズムよく生まれる作品も作ってみたい」と、語る言葉も軽快。ますます楽しみなACCa 4回目の展示である。