「最近はますます李朝にひかれています。作品で主張するばかりでなく、いい加減な(良い 加減)もの、自分の中にあるものを自然に表現できればいいと思っています。」と檀浦さんは語っている。
その作品は言葉の通り、熟練の技なのに、これみよがしのところがなく、穏やかで優しい。しかも独自の存在感で、手元において使ってみたいと思わせる。実際、どんなシーンにもしっくりと納まる。不思議な魅力なのだ。
地元越生の自然を愛する作家は、釉薬も地元の梅灰や石などを原料としている。今回は定評ある黒や粉引きに三島手も加わり、小物も多く展示される。
「一つ一つの作品に自分の思いの手のあとを残していきたい」と語る作家の思いは、作品を手に取れば、自然に伝わってくる。掌にしっくりとなじんで、長年なじんできたもののように思わせてくれるのだ。
柔らかい表情の粉引きや、ヘラのあとが美しく並んだ見事なしのぎの技法。シンプルで飽きが来ず、心落ち着く器は、「土」と「手の仕事」を大切にする加藤さんならではのものだ。
土から自分で掘り出してくるのだそうだ。それがたとえうまく形にならなくても、土を扱う仕事の再確認になると。そんな人柄のにじんだ一輪ざし、蓋物などに、ぜひ出会って頂きたい。
「ガラスの最大の特徴ともいえる透明性を、あえて曇らすことで宿る光。私の作る器や箱に本当に入れたいのは、光そのものなのかもしれない」とは、井上さんの言葉である。
マットな質感を持つ面に囲まれた空間は、空(から)のように見えて、実は光を閉じ込めているのだ。透明と不透明のあわいを通り抜けた光は、優しく懐かしい表情を器に与えている。
キルンワークの魅力を十二分に生かした器は、手に取りたい、使いたいと思わせる器である。今回は前回にも増してバラエティに富んだ作品が並ぶ。
梨本さんの器からは、心遣いの気配がたちのぼる。「デザインと実用性は表裏一体。おしゃれで使いやすいものを。」と、常に思っているという。使い手を忘れずに制作するという姿勢なのだ。
奇を衒うことのない、しっかりとした造形のうえに、白化粧やいっちん等で細やかで優しい模様が施されている。その組み合わせが新鮮で、思いがけない可愛らしいさを見せたりする。実際に使ってみると、いっそう映える絶妙のデザインなのだ。程が良いという言葉があるが、まさに洗練されていて、気が利いていて、やはり心遣いの器なのだと思う。
タゴさんの「イロ」、豊かな色彩には、見る人の心を弾ませる力がある。鮮やかで、おしゃれで、楽しくて、洗練された色遣い。サンドブラストで自在に描かれた植物たち。その形の面白さに惹かれ、自分なりの植物を表現したいと田子さんは言う。みずみずしい器たちは、食卓に、”明るさとちょっとしたスパイス”を加えてくれること、請け合いである。 アキノさんの「シロ」、クリアなガラスにレース模様のシリーズは、繊細でありながら春風に吹かれているような優しさが漂っている。吹きガラスで作られたシンプルで柔らかいフォルムの器は、そっと両手に包んでみたくなる。料理が映えるのがいい器だと思う、と言う。毎日の暮らしに、”美味しい、嬉しいが増えますように”とは、アキノさんの願いだ。 魅力的な器を作る二人のガラス作家による、春らしいテーブルウェアが展示される。
日常を風が吹き抜ける瞬間。街の風景が移ろう時。そんな一瞬をとらえて、キャンバスに再現しているのだと、ナガタさんは言う。しかし出来あがった絵は、写実に留まらない。彼女の視線がすくい取った事象を超えて、内なる感情や思いを表出する。
色彩豊かで生き生きとした画面は、時に密やかに時に強く、見る側に語りかける。気付くと、同じ場所で同じ風景を見ていたような懐かしさすら、覚えているかもしれない。内にあるものを大事にしながら、外へ向けても開いている、彼女のそんなしなやかさが、実に魅力的なのである。
加藤さんの器を前にすると、いつもの料理も、盛り付けや色彩りを変えてみたくなる。気張るわけではないけれど、心持ち背筋を伸ばしてみたら気分が良くなるに違いない。そう思わせてくれる器だ。
「繊細すぎず甘すぎず、緊張させすぎず、でもルーズな感じではない、クールだけどくつろげる器を作りたい」と、語っている。なかなか欲張りなようだが、ご本人が目指す生活スタイルでもあるのだろう。そこをさらりと実現しているのが、加藤さんの実力である。白の粉引きや黒など、使い心地のよい皿やカップ等が展示される。
大のかば好きもそうでもない人も、山田さんのかばには一目で魅了されてしまうだろう。遺跡に静かに佇むかば達。その脳裏に浮かぶのは儚い夢か哲学かなどと、つい想像してしまうに違いない。そして、ゆるぎない存在感かつ少々ユーモラスなかばには、テラコッタの肌合いがよく似合っているのだ。
お子さんの誕生以来、「生きる」姿のたくましさと賑やかさに、日々驚かされているという山田さん。少しやんちゃで元気な河馬も作っていきたいと語る。生き生きとした「子河馬」にも、ぜひ会いたいものだ。今回は、テラコッタの他、版画、ドローイングのかばも出展される。
表面に草花模様が優しく浮き立つ白磁焼締めの器(bisque シリーズ)や、涼やかで愛らしい蓋物などの白磁小品で定評のある高橋さん。今回は同じシリーズでも、土や焼成を変えて新たな試みに挑戦している。 テーマは、『「涼しげな器」から「温度のある器」へ』である。手のひらで水を掬うような控えめな可憐さから、新たな広がりをめざす。ピンク、ブルー、イエローなどの色を練り込んだ新作(misty シリーズ)も出展される。高橋さんの特色である優しい表情に柔らかさが加わり、いっそう際立つに違いない。
「虫眼鏡、ビーカーの液体、顕微鏡のプレパラート、シャーレの中。実験や観察のたびに、ガラスの向こう側のものに驚き、目を見張って覗き込んだ。今も、そんな私は変わっていない。ガラスの中の現象を驚きと好奇心を持って覗き込んでいる。」
そう語る尾形さんは、子供の頃のわくわく感を持つと同時に、思索する人でもあるらしい。小さなガラスの中に、深い奥行きを創出する。遠い記憶、奏でる音楽、雨や風の音等々。ガラスの向こうから、それらが光の粒子となって無限の物語を紡ぎ出し始める。ぜひ覗き込んで、あなたに向けた物語を聞いてほしいと思う。
小泉さんがめざすのは「あたたかい磁器」である。つい手に取ってしまい、普段着のようにしっくりとなじむような。ほど良く力の抜けた優しい器は、さりげない日常の食卓にこそふさわしい。器が穏やかで明るい風を送ってくれるような感じがするのだ。
下山さんのテーマは「なんだか気になるひと癖あるヤツ」である。型や彫りで創出されるくっきりした稜線は、確かに素通りできない感じがある。器が呼び止めるようなのだ。そんな器は食卓に、ちょっぴり華やぎをもたらすに違いない。
同じ青白磁ながら、個性の違いが際立つ二人の器を楽しんでいただきたい。
坂井さんの作品を見ていると、逆に居並ぶ動物たちから見られていると、錯覚しそうになる。 黒釉で描かれたモノクロの、木版画のような風合の動物たちなのに。
皿の脇から顔を覗かせ、ちんまりした丸い目はそっけないふりをしながら、こちらに興味津々の様子だ。ぬうっと突き出した鼻先、大きく広げた翼、ぴんと立ちあがった耳。それらを形作る強く伸びやかな線を見れば、彼らは誇り高い存在だとわかるのだ。などと、ついあれこれ想像してしまう。
大きく動物を配しながら、食器としても使いやすく楽しい。今回は20プレートや、小立体も展示される。
くっきりと大きく色彩で区分けされた画面が、鈴木さんの絵の特徴だ。彩度をおさえながらも濁りのない色合いの油彩の画面には、清澄な空気が漂っているようだ。
テーマは「記憶の中のぬくもり」。安らうためのぬくもりではない。「記憶の中を探る手掛かりとなる、最も鮮明な感覚」だと、語っている。自己を形成してきた過去と、現在とを重ね合わすための手掛かり。そして、「今」を新しい記憶となし、次の世界を描き出す。
感傷を遠ざけた静かな画面から聞こえるのは、ゆっくりと、だが確実に前へ進んでいく足音なのかもしれない。
金沢で制作を続ける坂井さん。湿気の多い土地柄、鉄はよく錆びるらしい。でも、自然の力に目に見えて反応するのも、鉄の魅力だと語る。硬く重たく冷たい鉄を、金槌で叩いて思い通りの形に近づけていく。その長い作業の中で、鉄が正反対のものに生まれ変わる瞬間があるのだという。
そうして生まれた坂井さんの作品は、どこか懐かしさが漂い、手に感じる重みさえも、心が落ち着くようだ。端正で美しい形は、繊細さも湛えている。使い手への配慮も抜かりはない。細部にも心が配られている。今回は壁掛けのオブジェ、壁掛け花器を中心に展示される。
船山さんは「形を愛でるオブジェと、容器としての機能との間を漂っているような器、かつ置いただけでその場が楽しくなるような存在感のあるものを作りたい」という。確かに彼女の作品は、ゆるぎない存在感をもつと同時に、何を盛ろうかと,想像したくなるような親近感をも感じさせる。例えば、小さな指先が、そこから摘み出している場面までも、想像してしまうほどだ。
手を添えた時、どんな手にもしっくりするのは、「刳り物」だからだろうか。「のみと彫刻刀でつくる刳り物は、手の跡が見えやすく自由に造形できるのが魅力だ」と、作家自身も語っている。素材との距離感を意識している、という制作姿勢が生み出す、清々しい器たちを是非ご覧ください。
「木立の下で風に揺れるペンペン草。雨露をあつめて光るノイバラの実。季節が巡ってまた出会えた草花たち。ふと見せる彼らの、朗らかでひそやかな姿を描きたい。」と語る言葉そのまま、詩的な画面が印象的な今井さんの絵。
自在な線と繊細な色彩で描かれた植物たちはのびやかに生き、光や風や雨、季節の移ろいさえも楽しんでいるかのようだ。草花たちの会話まで聞こえてきそうである。八が岳の自然の中で制作する、今井さんならではの世界を楽しんでいただきたい。
染付の器に、新鮮な風を送り込んでいる小野田さん。ご自身が大好きだという古典柄も、その筆にかかると、鳥のはばたきも、ぶどうの蔓も、自由さを増し、開放され、ユーモアさえ漂わす。現代の食卓にしっくりと合う器になっていく。
自然に恵まれた琵琶湖に移り住んでからは、名前も知らない虫や草花に会うと、染付でどう表現しようかと思いを巡らせ、制作に取り組む日々だという。
新たな広がりを見せる自然のモチーフに、古典柄、来年の干支の兎柄も加わり、器選びがいちだんと楽しみな展示である。
ACCa 4回目の、漆山みさきさん。独特の造形、造語で印象的な「わたね」シリーズを、ご記憶の方も多いはず。風に乗って、たくさんの出会い、ふれ合いを重ねた「わた毛 + 種」は、大事に温められ、育てられ、さらに深まっていく。それを彼女は「宝物」と呼ぶ。
「宝物。それは特別な物。そしてどこにでもある物。すごく近くにあったり、はるか遠くだったり。見えなかったり、手にしたとたん消えてしまったり。でも、いつか必ず出逢える。心が少し色付き、少し暖かくなる、そんな瞬間に。」
このメッセージ通り、今回も、繊細で独自なデザインと色彩のガラス作品に出逢っていただきたい。